コラム著者:竹内 結
家庭医療専門医
食事の時に、飲み込みづらさを感じたり、食べこぼしがあったり、喋りづらさを感じることはありませんか。また欠けている歯や入れ歯が合っていないと感じることはありませんか。これらの症状はオーラルフレイルと呼ばれ、誤嚥性肺炎などを起こす前段階で、口腔の機能が低下している事を示しています。意識していなくても口腔内のトラブルを抱えている方は少なくありません。専門的な対応は歯科の先生に相談が必要ですが、今回は普段の生活や介護の中で意識できる点を紹介しようと思います。
口腔内には数え切れないほど多くの細菌が住んでおり、常に増殖しています。口腔内の歯垢1g中には、糞便1g中と同じくらいの細菌がいるとも言われています。口腔内の細菌の一部が肺に侵入すると、誤嚥性肺炎を発症する可能性があり、誤嚥性肺炎の予防という視点からも、近年は口腔ケアの重要性が注目されています。
具体的には唾液と歯の役割について紹介します。唾液の分泌は1日に0.5~1.5Lにも及びます。唾液により口腔内の食べ物はまとめられ、なめらかに嚥下することが可能となります。それ以外にも、抗菌・殺菌作用や粘膜保護作用によりばい菌の増殖を防いだり、消化作用や溶媒作用により味覚を感じる助けをしたりと、唾液の役割は多岐に及んでいます。また歯の役割も、食物を噛んで細かくするだけでなく、のどの奥へ食物を運び嚥下を行う上でも重要となります。自分の歯が少ない場合、入れ歯がその役割を担います。
では具体的に口腔ケアとは何をすれば良いのでしょうか。大きくは口腔保清と口腔リハビリテーションに分けられます。口腔保清とはその名の通り、口腔内を清潔に保つことです。歯がある場合、口腔保清の主役は歯磨きです。特に歯並びが悪い場所、歯と歯の間、歯と歯肉の間は磨き残しが多くなりやすいので注意が必要です。歯ブラシに加えて、舌には舌ブラシ、歯間にはフロスや歯間ブラシも使用することをお勧めします。入れ歯の場合は適合しているかも重要です。合っていない入れ歯では、口の中に傷ができたり、隙間に食べ物が溜まってしまうなど、食事において悪影響が出てしまいます。入れ歯の管理や調整も重要な口腔ケアとなります。同時に唾液腺のマッサージもすることで、唾液分泌も促されます。口腔内の清掃を行ったあとは、うがいやガーゼによる拭き取りで、細菌を含んだ分泌物を除去します。そして最後に保湿を行います。要介護状態の方では唾液分泌が少なかったり、口を開けて乾燥してしまうことも多く、保湿剤の散布などを行う事を勧めています。
また加齢に伴い筋力は低下し、唇や舌、噛む力や頬の力も低下していきます。口腔リハビリテーションは、口や舌を大きく動かす運動を行い口腔周囲の動きをよくしたり、唾液腺のマッサージにより唾液分泌を促すことや、首や肩の柔軟運動を行い良い姿勢を保持することを行います。口腔は「食べる」以外にも「話す」「笑う」「呼吸をする」役割も担っており、これらの動作を意識して行う事も、リハビリテーションの一環となります。家族や友達と会話を楽しみ、美味しく食事を食べることは、オーラルフレイルの予防としてとても効果的です。
毎日の食事を安全においしく食べるために、口腔ケアを意識してみてはどうでしょうか。最近は訪問歯科を行っている歯医者さんも増えてきています。気になる方は気軽にご相談ください。
参考文献:前田圭介:誤嚥性肺炎の予防とケア、医学書院;2017