コラム著者:菊地 英豪
総合内科専門医
関節リウマチの診療を中心としたいわゆる「リウマチ専門外来」で診療をしていると毎月のように「職場の健康診断でリウマチ因子が陽性だった」「たまたま受診した人間ドックでリウマチ因子が陽性だった」ということで「詳しく調べてほしい」と患者さんが紹介され来院します。「健康診断の結果説明では何も言われなかったけど関節リウマチがやっぱり心配」として患者さんご自身の意思で来院される方もいます。
ほぼ全員が特に関節の痛みもなく、そのほかの自覚症状もないため「関節リウマチではありません」ということになります。
2009年にアメリカリウマチ学会、ヨーロッパリウマチ学会合同にて現在も広く使われている関節リウマチの分類基準が発表されました。この分類基準によると関節リウマチは少なくとも1か所以上の関節炎症状(痛みや腫れ)があって初めて診断や治療の対象となる病気とされています。ですので「関節はどこも痛くありません」という方はたとえリウマチ因子が陽性であっても関節リウマチには当てはまらないことになります。
健康診断などで測定されるいわゆる「リウマチ因子」は多くが「IgM-RF」と表現されるIgM型のリウマトイド因子と呼ばれるもので、関節リウマチを持つ患者さんの70~80%で陽性の値を示すと言われています。しかしながら関節リウマチ発症6か月以内の早期の関節リウマチでの陽性率は30~50%とされ、発症したばかりの関節リウマチの方にはリウマトイド因子が陰性の値を示すことも非常に多いのが実情です。
また健康な人のみを集めた「一般健常集団」において2.4%の方でリウマトイド因子が陽性を示したとの報告もあり、必ずしも「リウマトイド因子陽性=関節リウマチ」の式は成り立たないのが実情です。以上のことよりリウマトイド因子は関節リウマチの早期診断スクリーニングに健康診断で用いるには実は適していない検査と思われます
健康診断からはやや離れますが、リウマトイド因子は関節リウマチのみならずシェーグレン症候群や全身性エリテマトーデス、筋炎や強皮症、血管炎などの多くの自己免疫疾患で陽性値をとり得ることが知られており、間質性肺炎の指摘を受けたことがある、関節痛や口の中が常に乾いていることを自覚されている等、気になる症状がありましたらお気軽にご相談下さい。
検査を受ける際にはその検査が「本当に診断の役に立つのか」を考えるきっかけに本稿がなれば幸いです。
参考文献:三森明夫:膠原病診療ノート 第3版、日本医事新報社;2013